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推理ファンタジー『雪の日の リリィ』ラストの逆転を楽しんで。 [推理童話]

(はじめに - 作者からのお願い)

 これは、オトナの方たちのために書いた、推理仕立てのファンタジーです。ちょっとした仕掛けがしてあります。ストーリー通りに読んでくだされば、その仕掛けを楽しむことができると思います。作者の思いを汲んで、どうか、いきなりラストへスクロール、なんてしないでくださいね。あなたを信じて‥‥。

 なお、この童話のイラストを描いてくださっているのは、sasuke さんという、高校一年生。彼女は、楽しいイラストと、複雑な高校生活のつぶやきに満ちた、「タイトル未定」という自分のブログを持っています。そちらのほうにもぜひ遊びに行ってあげてください。イラストは、このあとも、順次増えていく予定ですので、お楽しみに!sasuke さんの「タイトル未定」のURLは以下の通りです。

    http://blog.so-net.ne.jp/jumpingjack/

では、私の童話と、sasuke さんのイラストを、共にお楽しみください。

 

        『雪の日の リリィ』

 あたしが、初めて彼と出会ったのは、欅の若葉がやっと芽吹きはじめた春のはじめの日曜日。原宿・表参道を右に曲がった裏道に今もある、ブルー・キャットという、小さなスナックで、だった。

                                (illusted by sasukeさん)

 そこは、当時のあたしのお気に入りの店で、毎日、夜の7時か8時に出かけては、用もないのに閉店近くまで粘るという、気ままで自堕落な時間の過ごし場所でもあった。

 店の奥にはテーブル席が4つ。そこに続く細長い通路の右側は、脚の長いスツールが7つほど並ぶ、L字型のカウンターになっていて、いつもなぜか一年中、大きな壷に白い百合の花が活けられている。

 そのカウンターの中では、やっぱり一年中同じ蝶ネクタイ姿のやもめのマスターが、造り付けのライティングデスクに向かって、文庫本を読んでいた。

 まるで商売っ気のない変わり者で、飲み物も食べ物も注文しないあたしなんかが、遊び半分でしょっ中店に出入りしても、追い出そうともしない。ビール一本でひと晩中粘るお客さんが居ても、気にもしない。

 だからかどうか知らないけど、マスターは三回結婚して、三回とも奥さんに逃げられたんだって。別れた奥さんたちはなぜかみんな白い百合の花が好きで、だからカウンターの上の百合は別れた奥さんたちへのレクィエムなのさって、古い常連さんたちが無責任なうわさしてた。

 マスターは、あたしに少し気があるみたい。だけど三人もの奥さんに逃げられた男なんて、いくら浮かれ娘のあたしでもお相手したくない。だってあたし、初恋だってまだなんだもの。

 ここのお客の大半はいわゆるギョー界人の男たち。

 気取りやで見栄っぱりで、付き合う女の子を一ヶ月単位で取り替える、なんておバカなゲームにうつつをぬかしてる。だけど、あたしの見るかぎり、そんな彼らの方こそ、したたかな女の子たちのお財布代わりにされてるのよね。どうして気づかないんだろ。まったくここの連中は、みんなマスターそっくりのお人好しばかりなんだから。

 そして色白だけが取り柄のあたしは、マスターからいつのまにかりりィ、と呼ばれるようになり、常連のお人好したちからは<ブルー・キャット>のカンバン娘として甘やかされ、可愛がられるようになっていた。

 彼はたいてい、九時過ぎに、一人でやってきた。そして必ず、L字カウンターの角、壁際に2つ並んだスツールの手前の席に座る。奥のスツールは、いつも彼より先に来ているあたしの指定席だったから。

 この2つの席は、背の高い植木鉢でテーブル席のあるフロアからさえぎられ、入り口からもちょっと死角になっていて、誰も邪魔せず、誰にも邪魔されない、なかなかの特等席。目の前にマスターが座っていることを除いたらね。

 彼の好みはバーボン・ウィスキー。 ワインやビールやブランデーを飲んでるとこなんか、見たことがない。

         

 座ればすぐ彼の前に、ワイルドに羽を広げたターキーのラベルのついたバーボンのボトルと、マスターがヒマにまかせて丹念に削りあげた、まん丸の氷が入ったバカラのグラスが置かれる。まだすこし刃跡の残るその氷の上にゆっくりとバーボンを注ぎ、氷がいっそう丸く滑らかに、透明な輝きを増していくのを楽しみながら、彼は一人のグラスを重ねていく。

 あたしはそんな彼に、出会ったときから胸がときめいた。

     

 彼はこの店に来るどの客とも違っていた。酔っ払うとすぐに、小娘のあたしの頭を撫でたり、お尻に触ったりしにくるおバカ連中にはない、「自分」ってやつを持っていた。この人ならきっとあたしを、どんな偏見も持たず、まっすぐ見つめてくれるにちがいない。

 彼も少しは気にしてくれているのか、ときどきちらりとあたしを見る。 だけど臆病なくせに生意気なあたしは、そんな気配を感じるたび、ツンとそっぽをむいてしまう。だってもし眼が合って、声をかけられても、返事なんて絶対に返せないもの。だからできることは、大人の彼が、あたしの不器用な恋心に早く気づいてくれますようにって、神さまに祈るだけだった。

 11時をまわると、彼は誰にも気づかれないよう、そっと店を出て行ってしまう。隣りの席から、熱いまなざしを送っている、あたしのコトなんか気にもかけないで。

 彼の素っ気なさに、あたしのプライドはとても傷ついた。だけど、話しかける勇気も言葉も持たない、世間知らずのうぶな小娘に、いったい何ができるっていうんだろう。 

 そんな彼が夏の終わりごろ、突然女の人を連れて、店に入ってきた。

 栗色のショート・ヘア。シンプルなベージュの麻のスーツ。小麦色の長いスラリとした脚に、白いハイヒールがよく似合う大人の女性。彼は、いつものスツールなんか見向きもせず、店のいちばん奥のテーブル席へ、まっすぐ彼女をエスコートしていった。そして彼女にはワイン、自分にはブランデーを、さらりと注文した。                   

 いつになく気取った彼の雰囲気にいらいらし、二人の方ばかり気にしているあたしを、マスターがニヤニヤ笑って見てる。あたしは完全に頭に血がのぼり、 店を飛び出してしまった。

 血統や育ちを聞かれたら、あたしには答えるものなんて何もない。父親の顔も知らないし、母さんは、あたしと双子の姉さんがまだ乳呑み児なのに突然家を飛び出し、そのままいなくなってしまった。                                              風のうわさでは、よそから来た男とカケオチしたって聞いたけど。                               あたしは母さんのことは、できるだけ考えないようにしてる。                   だって自分の母親が、自分の産んだ子も家も平然と捨ててしまう、野良猫みたいな女だったなんて、思いたくないもの。

 親のいない姉妹が、自分たちだけの力で生きていかなきゃならなくなったら、生活の条件や方法なんか選んでいられない。親戚もいなかったし、拾ってくれる人がいたら、必死でその手にすがるしかなかった。

     

 それでもあたしたちはまだ子どもだったから、ついはしゃぎすぎたり、騒いだり、そこらのあれこれをこわしたりしては怒られた。襟首つかんで投げ飛ばされ、叩かれたりすることもあった。そしてついに持て余され、その家を追い出されてしまった。

 それからの生活は思い出したくもない。

 寝るところがなくて、どっかの神社ののき下で二人抱きあい、震えながら夜を明かしたことがある。優しそうな男の人についていったら、いきなりナイフかなんか出され、噛み付いたり引っ掻いたり、大騒ぎして抵抗し、死に物狂いで逃げ出したことだってある。

 それでも、そこそこ健康だったあたしはまだよかった。姉さんは双子のくせにあたしとは大違い。とても体が弱くて、拾ったものを食べたりしたら、すぐにお腹をこわすし、どこかにちょっとケガでもしたら、あっという間に傷口は膿み腫れ上がり、やせ細ってしまう。

 寒さにも、暑さにも弱い姉さんを、あたしはよく、ひと晩じゅう抱いて寝てあげたものだ。だからやっと、雨露ぐらいはしのげる空き家を見つけ、二人してもぐりこんだときは、本当にほっとして、嬉しかった。これから二人で、やっといくらか安定した生活を始められると思ったのに。あたしたちをまた、とんでもないアクシデントが襲った。

 街の不良どもが姉さんに目をつけたのだ。

 ずっと姉さんを守ってきたあたしは、いつの間にか攻撃的で気の強い、男っぽい女の子になっていた。それに比べて姉さんは、はかなげで頼りなく、いつも男の子たちの保護本能を刺激してしまう。

     

 春の初めから夏にかけ、昼も夜も、そういう男の子たちにつけ狙われていた姉さんは、ある晩とうとう行方がわからなくなってしまった。

 帰ってこない姉さんを探して、あたしはひと晩じゅう街を歩き回った。だけど、どんなに探しても、姉さんは見つからない。ほんの少しの希望を抱いて三日間、空き家の片隅で姉さんが帰ってくるのを待ちつづけたけれど、姉さんはとうとう、そのまま帰ってはこなかった。

 四日目の朝、空腹に耐えかねて起き上がったとき、あたしの心はどうしてか、喜びでいっぱいになった。                                               姉さんからの開放感‥‥ああ、これでやっと、あたしは自由になれる !

 もの心ついてからずっと体の弱い姉さんを守りつづけ、二人の暮らしを支えつづけたあたしは、自分が何をしたいか、何をほしいのかと考える余裕もなかった。              でも少し大きくなり、大人の入り口にさしかかったとき、心のどこかが姉さんをうっとうしがりはじめていることに、気づいた。

       

 いつも誰かの支えがないと生きていけない姉さんは、周りの、自分に対する気持ちに、とても敏感だった。そんな姉さんが、いちばん頼りにしているあたしの気持ちの変化に気づかないはずはない。そう考えたとき、あたしは、ハッとなった。

 姉さんは不良たちに追いかけまわされていたんじゃない。姉さんの方から、彼らを誘っていたんだ。自分を疎んじ、守る気を失くしはじめた妹のかわりに、自分のワガママをどこまでもきいてくれる、従順で頭の軽いドレイを手に入れるために。

        

 プライドが高く、心の中はあたしよりずっとしたたかでドライで、手ごわかった姉さん。姉さんはきっと、とっくの昔に、あたしが心変わりすることを見抜いていた。だからできるだけ早く、あてにならない、足手まといなあたしを、捨ててしまえるチャンスを待っていたんだ。

 あたしは突然、いろんなことがひどくバカバカしくなった。やっと見つけた寝ぐらも捨て、新しく生き直すチャンスを探す旅に出た。そうやってたどりついたのが、この<ブルー・キャット>だったのだ。

 お気楽なマスターと出会ったおかげで、あたしは小さな居場所を見つけることができた。それから半年近く、カウンター脇のスツールのひとつに座り、あちこちから伸びてくる誘いの手を払いのけながら、あたしを見つけてくれる人を待ち続けた。そしてとうとう、心から愛せそうなあの人を見つけた、と思ったのに。

 彼はいま、彼のおかげで少しは女らしくなりかけたあたしになんか目もくれず、どこかで知り合った小麦色の女の肩を抱いて、毎晩店に現れる。楽しそうな二人を見ているのは、とてもつらい。

       

 あたしの足は、<ブルー・キャット>から、だんだん遠のいていった。

 そんなある日‥‥。

 久しぶりに店に顔を出したら、彼が一人で、あのスツールに座って飲んでいた。マスターがあたしに、意味深な目くばせを送ってくる。あたしは思いっきり背筋をのばし、思いっきり気取って、いつものスツールに腰をおろした。

 彼が飲んでいたのは、バーボンだった。

 ふと顔をあげた彼の目と、彼を見つめるあたしの目が、初めて正面からぶつかり合った。彼がわずかに微笑み、あたしも目だけでそれに応えた。わずかな間に、あたしは少し、オトナになっていた。

 彼の手が静かに伸びてきて、軽くあたしのほほに触れる。

 その瞬間、あたしはその手を、その手の持ち主を、どんなことをしてでも手に入れたいと思った。そして同じ思いを、あたしに対しても持ってほしいと願った。ありのままのあたしを、ありのままに受け止めてくれるにちがいない、この優しい手の持ち主に。

 姉さんみたいに自分を上手に演出することなんかできないあたしは、それまでのありったけの思いを込めて彼の目を覗き込んだ。

 どうか、どうかこの思いが届きますようにと願いを込めて。

 それから思い切って彼のひざに手をのばした。手は、どんな言葉よりも多くの思いを、相手に伝えてくれる。そうあたしは信じていたし、あたしにはそれ以外、あたしの心を伝える方法を知らなかったから。

 彼は驚いて、いつもと違うあたしを見つめた。それから、びっくりするほど暖かい柔らかい笑顔を見せ、緊張で震えているあたしの背中を、その震えがとまるまで、何度も、何度も、撫でてくれた。

 ライティング・デスクの上の、マスターご自慢のウェストミンスター・クロックが、11時を知らせる鐘を打ちはじめた。彼は立ち上がり、カシミヤのコートを取って、ごく自然にあたしを振り返った。

 彼がドアを開ける前、マスターが軽く手をあげて、あたしに少し寂しげなウィンクを送ってきた。あたしがもう、<ブルー・キャット>には帰ってこないことを知ってるみたいに。

 あたしたちは連れ立って店を出た。

 外は、夕方からのみぞれが雪に変わり、彼の車の屋根にはもう、うっすらと雪が積もりはじめていた。

 彼がドアを開け、おどけた身振りで手招きをする。あたしは少しもためらわず、助手席に乗り込んだ。

 ヒーターが効いてくると、緊張しっ放しだったあたしの神経がゆるんできた。小さなあくびが出て、まぶたが重くなる。襲ってくる眠気と必死で戦っているあたしに気づいた彼が、笑いながら頭を撫でた。

「お眠り、リリィ。着いたら起こしてあげるから」

 全身が幸福感に満たされた。一度も呼ばれたことのなかったあたしの名前。彼はちゃんと、覚えていてくれた。

 今日から始まる彼との生活。あたしはもう、あの<ブルー・キャット>の冷たくて硬いビニールのスツールの上で、彼が来るのを待たなくていい。これからずっと彼のそばで、彼と一緒に生きてゆける。

 あたしは喜びをこらえきれず、とうとう彼のひざの上に飛び乗ってしまった。

      

そしてその温かい胸に思い切り頭をすりつけながら、自分でも信じられないくらい甘い声で、こんなふうに啼いた‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   

               ミャァーオォォォ‥‥!

        

(あとがき)

 いきなりラストから読む、なんてことをせず、私の仕掛けを楽しんでくださってありがとう。作者として、心から感謝します。

 さて、最後まで主人公の正体に気づかなかった、純真無垢なあなた。苦労して書き上げた甲斐がありました。作者冥利に尽きます。ありがとう。騙されて楽しかった感想をくださると、おだてに弱い私は、いい気になって、また机に向かいます。

 なに、すぐに正体がわかったよ、という、推理上手なあなた。後学のため、どのあたりで気づいたか、ぜひお教えください。それを参考に、また新しい作品に取り組みます。

 くだらん、つまらなかった、と思われたあなた。未熟者ですみません。あなたに喜んでいただける、もっと面白い作品を書きたいので、ぜひご意見をお寄せください。それを参考に、いま以上にがんばります。

 それから‥‥、

 高校2年生のイラストレーター ・ SASUKEさんの作品、いかがでしたか?彼女とは、このso-net ブログで知り合ったのです。そして、コラボレート。

初めての挿絵作品です。ぜひぜひコメントしてあげてください。 

sasuke さんのURL (お引越し先はココログです)                     http://jumpingjack-192.way-nifty.com/blog/

 次回作は爆笑童話をと考えていますが、これがなかなか難しい。短編時代小説も同時進行で制作中ですので、こちらもお楽しみに。ではまた、witch=villwで、あなたにお目にかかる日を楽しみに。 mama-witchでした。

 


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